EV BLOG

日産アリアにつながる過去・現在・未来
電気自動車の普及へ。日産のチャレンジ

Vol.3 日産リーフのデビュー前にスタートしていた、
リチウムイオンバッテリー再利用への取り組み。

#EV普及への取組 #技術 #蓄電池利用

2021.06.17

文:清水雅史 写真:殿村誠二

これまでにないクルマの価値を提供すべく登場した、量産型の電気自動車(EV)「日産リーフ」。それを世に送り出すにあたって不可欠だったのはインフラの整備、すなわち充電網を整えることだった。またその一方で、搭載された駆動用リチウムイオンバッテリーの再利用を進める取り組みが、日産リーフの発売以前にスタートしていたことにも注目したい。このような「EVをつくる」、そして「EVを売る」ということだけにとどまらない地道な努力は、EVの普及、そして今年予定されている日産アリアの販売にもつながっていくのである。

01
EVの価値を高めるバッテリーの再利用。

日産リーフを知り尽くしたフォーアールエナジー代表取締役社長 牧野英治氏。

日産リーフを知り尽くしたフォーアールエナジー代表取締役社長 牧野英治氏。


フォーアールエナジー(4R ENERGY)は、電気自動車(EV)に搭載されるリチウムイオンバッテリーの2次利用を進めるため、2010年9月に設立された。日産と住友商事の合弁会社で、「フォーアール」はバッテリーの再利用(Reuse)、再販売(Resell)、再製品化(Refabricate)、リサイクル(Recycle)の「4R事業」を柱とすることを示している。

初期型日産リーフが発売されたのは2010年12月のこと。つまり、世界初の量産型EVの販売に向け着々と準備を整えつつ、すでにリチウムイオンバッテリーのリユースやリサイクルが検討されていたということになる。

フォーアールエナジーの代表取締役社長 牧野英治氏は、当時からこのバッテリー2次利用の開発事業に携わっている。1983年に日産へ入社し、開発部門で技術渉外、技術企画などを担当。2008年からはゼロエミッション事業本部 ZEV企画グループ部長、その後本部長として、EVビジネスを推し進め、14年にフォーアールエナジー代表取締役社長に就いた。

日産がバッテリーの2次利用に早くから着目したのには、いくつかの理由があったと牧野氏は説明する。ひとつは、2次利用バッテリーにて蓄電池を手頃な価格で販売し、低炭素社会の実現に必要な再生可能エネルギーの普及に貢献すること。また、リチウム、コバルト、ニッケル、グラファイトといった、バッテリーに用いられるレアメタルの有効活用につなげること。そしてなによりも、このようなバッテリーの2次利用によって、EVの価値をより高めることが大きな目的だったという。更に、昨今、バッテリー製造時に排出されるCO2が注目されてきているが、バッテリーの2次利用、つまりバッテリーの生産を抑えることで、バッテリー製造時のCO2排出量の削減にも貢献することができる。

ゼロ・エミッション車であることや、お財布にやさしいランニングコスト、新しい走行フィールなど、日産リーフは魅力にあふれていたが、それが高価なクルマであってはたくさんの人々のもとに届かない。バッテリーを2次利用することで、そこに価値が生まれることになれば、EVの価格引き下げに貢献できると考えたのだ。また、リユースが実現すればバッテリーを処理するためのコストも抑えることができる。

その2次利用推進を担う場として、フォーアールエナジーが誕生。リチウムイオンバッテリーの再利用に関わる技術開発を進めながら、当初は家庭用蓄電池システムなどを手がけていたが、いよいよ2018年に日産リーフから取り外したバッテリーの再製品化を行う、フォーアールエナジー浪江事業所が開設された。国内初の本格的なリチウムイオンバッテリー再利用施設で、グローバルな技術開発拠点としての役割も果たしている。

フォーアールエナジー浪江事業所

フォーアールエナジー浪江事業所


02
回収バッテリーの性能測定・
分析技術を独自に開発。

回収したバッテリーの性能を正確に把握するために、独自の測定・分析技術を開発した。

回収したバッテリーの性能を正確に把握するために、独自の測定・分析技術を開発した。


それではどのように再製品化が行われているのか? そこに興味をもたれる方も多いと思うが、まずは日産リーフのリチウムイオンバッテリーについて簡単に触れておきたい。搭載される駆動用リチウムイオンバッテリーは、薄型ラミネート構造を採用した「バッテリーセル」をいくつも組み合わせて成り立っている。初期型日産リーフは、4枚のバッテリーセルをパッケージに収めた「バッテリーモジュール」を採用。そして48モジュールで構成される「バッテリーパック」を車体中央床下に配置している。

カバーを外したバッテリーパック

カバーを外したバッテリーパック。四角いお弁当箱のようなバッテリーモジュールが並ぶ。


2次利用のためフォーアールエナジーに運び込まれてくるのは、このバッテリーパックだ。作業はその性能を把握することからスタートするが、それぞれのバッテリーパックに能力の差があることはもちろんのこと、48個のバッテリーモジュールにもコンディションの違いが認められる。日産リーフはバッテリーの状態を常に把握し、著しい容量低下や故障を引き起こす要因となる、過電圧、過放電、過熱を防止するリチウムイオンバッテリーコントローラーを搭載しているが、そこに残る履歴が性能の確認に役立った。

800個のバッテリーパックを収納できる倉庫。

800個のバッテリーパックを収納できる倉庫。このほかにも保管スペースを用意する。


しかし、エネルギー密度が高い自動車用のリチウムイオンバッテリーをより安全に活用するには、現状の能力をより正確に把握する必要があった。そこでフォーアールエナジーは、回収したバッテリーの性能をよりきめ細かく測定することとし、短時間で効率的に分析が可能な独自のバッテリー性能測定方法を開発。個々のバッテリーモジュールを精査するシステムができあがった。

分解・組み立てエリアでは、24kwh再生バッテリーが組み上げられていた。

分解・組み立てエリアでは、24kwh再生バッテリーが組み上げられていた。


こうして分析を終えグループ化されたバッテリーモジュールのうち、性能が高いものは再度バッテリーパックとして組み直され、初期型日産リーフ向けの24kWh再生バッテリーに生まれ変わる。そして2番目に状態がよいバッテリーモジュールは、電動のフォークリフトやゴルフカート用に再製品化される。また、それらよりも残存性能が低いものは、事業所・店舗・工場などの設置型バックアップ電源(蓄電池)として活用されることになる。

バッテリーモジュールを性能で仕分けしたのち、さまざまなかたちで再製品化される。

バッテリーモジュールを性能で仕分けしたのち、さまざまなかたちで再製品化される。


フォーアールエナジーでは、このようなリチウムイオンバッテリーのリサイクル事業を展開するにあたって、米国の第三者安全科学機関 ULによる、車載用等で使われた蓄電池の再利用(転用)に関する評価規格「UL1974」の認証を世界で初めて取得した。再製品化されたバッテリーをさまざまな需要に応じ自信をもって提供するために、真摯な姿勢で取り組んでいることが伝わってくるが、現在は再製品化において蓄電池としての可能性が大きくクローズアップされているという。

03
幅広く蓄電池利用の可能性を探る。

日産とフォーアールエナジーが、神奈川県内のセブン‐イレブンの10店舗で行っている「再生エネルギーによる電力調達の実証実験」もそのひとつだ。これは日産リーフとフォーアールエナジーの定置型蓄電池をセブン‐イレブンがパッケージで導入。太陽光パネルも設置するなどして、バッテリーの再利用までを考慮した循環型のシステムを確立することを目的としている。また、踏切用バックアップ電源としての活用も検討されているほか、日産リーフのバッテリーパックをいくつも収めた大型EVリユース蓄電池システムが大阪市夢洲に設置され、隣接するメガソーラーの出力安定化や、災害時に活用する非常用蓄電池システムとしての可能性も探っている。

ところで、フォーアールエナジーの浪江事業所がある福島県浪江町にも、再製品化した日産リーフのリチウムイオンバッテリーを用いた設備がある。それが常磐線浪江駅にほど近い国道114号線沿いに設置された街路灯「THE REBORN LIGHT」だ。スタイリッシュなフォルムをまとい、太陽光パネルで発電した電力をリチウムイオンバッテリーに蓄えて点灯する。その発案者でもある牧野氏は、地域のみなさんとふれあうなかで「夜になると街が暗い」という話を聞いた。震災後の復興の一助になればと、このアイデアを思いついたという。

浪江町の国道114号線沿いに設置された街路灯「THE REBORN LIGHT」。

浪江町の国道114号線沿いに設置された街路灯「THE REBORN LIGHT」。


こうした2次利用が可能となったのは、日産リーフの発売と並行して綿密に準備が進められたことが大きいが、もうひとつ忘れてはならないのが、日産リーフに搭載されているリチウムイオンバッテリーが、とても高性能であるということだ。車重のあるクルマをドライバーの操作に合わせて走らせるため、自在にパワーを繰り出し、また減速時に電気を回生したり、さらには急速充電にも対応する。ある意味過酷な使われ方をする駆動用バッテリーは、一般的なリチウムイオンバッテリーよりも優れた性能をもっている。

それゆえ、EVを快適に走らせるためには性能が心もとないバッテリーであっても、そのほかの用途であれば、充分に機能するパフォーマンスを残しているのである。また、EVリユース電池を安全になおかつ最大限利用するために、日産リーフで培ってきた制御技術が用いられていることも見逃せない。日産リーフの高性能が、フォーアールエナジーの事業を支えていると言い換えることができるかもしれない

バッテリーのリユース・リサイクル事業はEVの価値を高めるため必要だと牧野氏は言う。

バッテリーのリユース・リサイクル事業はEVの価値を高めるため必要だと牧野氏は言う。


日産リーフが登場して10年あまり。回収されるリチウムイオンバッテリーが増えてきたことで、2次利用のサイクルが動き出したわけだが、初期型日産リーフの4セルモジュールのほかにも、今後は現行日産リーフの8セルモジュールや、さらにコンパクト化を実現した日産リーフe+用の新型モジュール、そして日産アリアのバッテリーにも対応していくという。

EVの普及を支える取り組みはクルマそのものの開発のみならず、このような視点からも着々と進められてきた。つくって売るだけではない、インフラの整備やリチウムイオンバッテリーのリユース、リサイクルといったさまざまな工夫こそが鍵を握り、そういった課題に真摯に向き合ってきたことは、ワクワクするようなEVの未来を感じさせてくれる日産アリアの登場にもつながっていくのである。


再生バッテリーの価格について、2018年3月時点の情報を掲載しておりました。
申し訳ございませんでした。
価格については販売会社にお問い合わせください。


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